春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔 師いわく』(小学館)絶賛発売中です。人生相談の本です!
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イラスト/もりいくすお
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 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「元号」。

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 4月1日午前11時、本市内の高速バス乗り場。前日、熊本での演芸会に出演した私。明けて1日は博多での昼夜公演のため皆でバス移動となった。メンバーは上方の月亭遊方・林家きく麿・三遊亭天どん・漫才のホンキートンク・三遊亭ふう丈(敬称略)……と私、一之輔。4月とはいえ、肌寒かった。一同、震えながらバスを待つ。

 誰かが「バスの中で発表を聞くかんじですかねー」と言った。新元号の発表は今日の11時30分。「どんなんかな?」。暇をもて余した芸人たち、当然のようにそこから『新元号大喜利』が始まる。だが、みな二日酔いで出来は不調。ヘラヘラ笑いあっていると遊方師匠が「あっ!」と声をあげた。「ホテルのカードキー持ってきてもうたっ!」「チェックアウトしてましたよね?」「したよ。フロントと話したはずなのになんでカードキー渡さへんかったんやろ?……あ! 間違えてICOCA渡したかも!?」「んなバカな! あちらも気づくでしょ!!」

 すぐにホテルに電話する遊方師匠。「カードキーは破棄してええって。俺のICOCAは預かってないって。どういうことや?」。正直、どうでもよかったが、一応首をかしげたふりのままバスに乗り込む。「自販機で水買う時間ありますかね?」。ホンキートンクのボケ担当・利さんが運転手に尋ねた。「あと30秒で発車します」。にべもない上に細かいな。数えてみたが、バスは1分45秒後に発車した。

 みなバラバラにゆったり座る。五分咲きの桜のなか、石垣を修復中の熊本城の脇を通った。桜も城も中途の美しさ。このバランスはなかなか観られない。午前中、時間があったんだから散歩でもすれば良かったな……と悔やんだ。通路を挟んで右隣、天どん兄さんはさっきからずーっとゲームをしている。お客さんがいる打ち上げでも、客そっちのけでゲームができる人だ。熊本城と桜の良さはわかるまい。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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