大日向地区を訪問された天皇皇后両陛下(c)朝日新聞社
大日向地区を訪問された天皇皇后両陛下(c)朝日新聞社

<かの町の野にもとめ見し夕すげの月の色して咲きゐたりしが>

 2002年に皇后さまが詠まれた歌で、「かの町」とは軽井沢町のこと。天皇皇后両陛下にとって思い入れの深い土地といえる。

「軽井沢では、心身がよく休まるんでしょうね。ご友人もいて、思い出もありますので」

 と話すのは1999年から12年間町長を務めた佐藤雅義さん。03年に植物園をご案内したとき、陛下の博識ぶりに驚いたという。

 陛下は皇后さまに「ピンクが濃いのがアサマフウロだよ。ちょっと薄いのはタチフウロ」とご説明されたり、佐藤さんが「湿地でもアザミがあります」と申し上げると、「いや、これはとげがないからタムラソウですよ」と逆に教えてくださったりしたそうだ。生物学者でもある陛下。山野草をめでるだけでなく、専門的知識を備えているあたりは、研究者としての陛下の顔が垣間見えるエピソードだろう。

 平和に対する強い思いがある両陛下は、ご静養地でも戦争で苦労された人びとのことを忘れなかった。軽井沢では、必ず大日向地区を散策したという。同地区は旧満州からの引き揚げ者が入植した地域だ。

「そういう方々に両陛下は寄り添ってこられました」(佐藤さん)

 一方、ご友人たちとは楽しい時間を過ごした。篠原義易さん、克代さん夫婦は、テニスが縁で両陛下との交流が始まった。自宅近くのテニスコートで、両陛下と克代さんがテニスを楽しんだのがきっかけだという。

 皇后さまは戦時中、軽井沢に疎開。義易さんは、そのときに皇后さまと同じ国民学校に通っていたので、同級生の消息を皇后さまは熱心に尋ねられたという。

「その時にお世話になったのでお礼をいいたいとおっしゃっていました」(義易さん)

 文学に関心のある両陛下は、軽井沢ゆかりの文人の資料の展示や別荘の移築保存に取り組む軽井沢高原文庫にもこれまで4回立ち寄っている。大藤敏行副館長によると、2009年の夏の作家辻邦夫展では、両陛下は辻の妻の佐保子さん(故人)と展示を回ったという。両陛下が皇太子夫婦時代から辻と交流を持ち、旧軽井沢にある辻の別荘に訪れていたほど親交が深かった。

次のページ
軽井沢では本当にリラックスされている様子だった