<乗れよ、やつらはみんな言う、乗れよ>
しかし以後の詳細は語られない。のろのろと墓場に戻っていくキャデラックが描写される。
<ぼくは降りてまたひとり>
こんなにカッコいいロックの歌詞の引用を読んだことがない。著者はこの本を長い小説のようにして読むことになるかもしれない、と最初のほうで書き記しているが、たしかにそうだ。強く頷く。
それからもう一つ。知らない曲はできるだけ音源を探しながら読み進めてみたのだが、引用されている歌詞は、そのバンドの代表曲とは限らない、ということだ。バンドのかなりの曲を聴き込み、そして選曲し、歌詞を日本語に移し替える。みんながよく知っている曲よりも、著者がいいと判断した歌詞をきちんと選んでいる。それがこの本の信頼度を高めている。著者の言葉になった歌詞がロックの歴史を物語のように縫い合わせ、一篇の文学作品に仕上げる。
もちろん、反論はあるだろう。英米のロックに限定されすぎだという批判は勿論ある(そこから外れたものも若干は書かれている)。だが、そんなことはいい。ロックの歴史を一冊ですべて書いてみたい、という意思は音楽好きなら誰もが持つものだし、たいていの場合はそう思うだけで、実現に至らない。あまりに無謀だからだ。しかし本書は現れた。そのことが嬉しいのだ。
最後に一言。私の一番のお気に入りは、フランク・ザッパに見出されたパフォーマー、ワイルドマン・フィッシャーの、ほぼ無意味な歌詞。詩とは「流れていく時間」である、という分析にグッときた。
※週刊朝日 2019年4月26日号