「一つひとつの線量は大きくありませんが、前立腺内に適切に配置することで、がんに強い照射をおこなえて、しかも周囲の臓器への影響が小さいことがメリットです。外部照射のX線の線量に換算すると、約100グレイの量を照射できます」(斉藤医師)

 適用となるのは低リスクのがんだ。東京医療センターでは入院は通常3泊4日。腰椎麻酔でおこない、手術時間は2時間弱。イラストのような体勢でおこなわれる。1年後には放射線はほとんど出なくなるが、効力がなくなっても、カプセルを取り出す必要はない。

 周囲の臓器への影響が少ないとはいえ、合併症がゼロというわけではない。治療後3カ月くらいは頻尿や排尿困難がみられることがあるが、徐々に軽快していく。また、手術や外部照射に比べて、性機能が維持される確率は高い。ただ、治療後6カ月くらいは子どもや妊婦との長時間の接触を避ける必要がある。体外に出る放射線はごく微量だが、用心のための措置だ。

 一部の中間リスク群や、悪性度が高い高リスク群などでは、LDRと外部照射の併用や、さらにホルモン療法(薬剤を用いてがんの増殖に関与する男性ホルモンの分泌を抑える)も併用する「トリモダリティ」が効果を上げている。

 このように、治療の第一選択になる放射線治療だが、最初に放射線治療を選ぶと、再発の際の手術の難度が上がるデメリットもある。放射線治療を受けたあとは、組織の変性や癒着などがあるからだ。しかし最近は、手術支援ロボット「ダビンチ」を用いると、放射線治療後の再発症例でも手術が可能となり、一部の病院でおこなわれているという。

「前立腺がんの再発率は低リスク群で約2%、中間リスク群で約10%程度と、それほど高くありません。たとえ再発してもホルモン療法などで再発後の余命も長くなっています。年齢と健康状態を考慮して、自分にベストな治療法を選択してください」(同)

(ライター・別所文)

週刊朝日  2019年4月26日号