すると、「こけしを作る」とか「積み上げてジャングルジムにする」とか奇妙奇天烈な方法が次々に提案されて、収拾がつかなくなってしまった。見かねた教師が、「燃やすのはちょっと危なそうだね」と口を挟んだところで、議論は完全にストップしてしまった。

 だが、大センセイは司会者である。なんとしても議論を前に進めなくてはならない。えい、仕方がない。

「穴を掘って埋めればいいと思います」

 こう、自ら提案をしたのである。すると……。

「賛成!」
「さんせーい!」

 過半数が挙手をした。

 こうして、校庭の片隅に積み上げられた百脚近い椅子を、高学年の生徒が校庭に穴を掘って埋めるという、前代未聞の大プロジェクトが始動することになったのであった。

 ところがプロジェクト初日、スコップを持って現場に現れたのは、言い出しっぺの大センセイを含めて、たったの三人であった。数十人が集まるはずの大プロジェクトは、やはり一回目からつまずくことになってしまったのであった。

 かように、大センセイが司会進行をした結果の“解決策”は、そのほとんどが実現困難だったり、不人気なものばかりであった。

 長じて、さすがの大センセイも落としどころなどという言葉を覚え、根回しなんかもおさおさ怠りなくできる人間になったつもりだが、近頃ふと、泣きながらひとりで穴を掘り続けたあの時の自分の姿を、懐かしく思うことがある。

 貧乏籤(びんぼうくじ)は引きたくないけど、人間、最後はひとりだ。

週刊朝日  2019年4月19日号

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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