特定されると不味(まず)いのでぼかして書くが、この数年の間で、知っている母親が風俗で働くことになった。 

PTAの母親同士で、投資詐欺まがいのトラブルもあった。

 風俗にいかざるをえなかった母も、怪しい投資話につい乗った母も、詐欺を行った母も、みなあたしとおなじくらいの中年女性。そうしなきゃ子を抱え生きていけない事情があったのだ。

 お金だ。これから先も生活するのに十分なお金があったら、違った今があったかもしれない。

 人付き合いが苦手なあたしの耳にも、そのくらいの話は嫌でも届く。この国の貧困問題に今騒がない人は、現状をまったく知らないのか? それとも知らないふりをしているのか? 冷血で、自分とは違う他人に、興味がないのか?

週刊朝日  2019年4月19日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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