一方、15年人口動態調査によれば、近年、老人ホーム、介護老人保健施設など、医療機関以外の高齢者施設が最期の場所となるケースが増加している。高齢者施設での死亡は、将来的にさらに増加すると見られている。多くの人が最期を自宅で迎えたいと願うものの、高齢者施設など自宅以外の場所で最期を迎える人が多いのが実態だ。

 施設に入りたくないなら、具体的にどうすべきなのか。

「施設に入るかどうかの判断は、基本的には子どもによるもの。子どもがどう考えて判断するかが、その後の親の運命を決めると言えます」

 小堀医師は、キーマンは子どもだと指摘する。「親を施設に入れる」という決断をする子どもに多いのが、親と遠く離れた場所に住み、かつ親が一人暮らしをしているパターンだ。

 離れた場所で一人で暮らす親の様子がうかがい知れず、子どもは不安を募らせる。呼び寄せて同居しようとするも、長年暮らした場所から離れたがらない高齢者は多い。そんな中、一人暮らしで風呂場で転倒してしまうなど、ちょっとした事件が起きる。それを機に、子どもは「今すぐ環境を変えないと危ない」と不安が募り、親の気持ちが見えなくなってしまう。

「親が一人で遠方に住んでいるという現実に対して、心配や不安から大きなストレスを抱える子どもは多い。しかし、それを理由に、嫌がる親を強制的に施設に入れるというのは、はっきり言って子どものエゴです」(小堀医師)

 だから、まずは、日頃から子どもに「施設には入りたくない」という意思をはっきりと、言葉で伝えておくのが大事だ。

「往々にして、親子は互いに“同じ思いだろう”“思いをわかってくれるだろう”と考えがちですが、はっきり口にしないと伝わらないものです。限られた人生をどう過ごすかという大事なことだからこそ、こうした意思は、例えば子どもの帰省などの度に、節目節目で伝えるべきです」

 ケアマネジャー歴18年で、これまで多くの在宅介護の現場に携わってきた牧野雅美さん(アースサポート)は、こう指摘する。施設に入りたくないと伝えるとき、なぜ家にいたいのかについても、あわせて伝えること。そうすれば、施設と家との対比を冷静にできるからだ。例えば、「長年住んだ慣れ親しんだ場所だから」「思い出が詰まった場所だから」という理由は、施設にはないポイントだが、「孫が遊びに来るから」といった理由なら、住む場所が施設に移っても解決できるかもしれない。また、口に出す前に紙に箇条書きにしておくと、自分の気持ちを整理しやすい。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年4月12日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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