イラスト/阿部結
イラスト/阿部結

 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「てーげー」。

*  *  *

 沖縄の本部町は、とてもいいところだ。

 エメラルドグリーンの海に変わった形の伊江島が浮かんでいる風景もいいし、美ら海水族館では巨大なジンベイ鮫が悠然と泳いでいるし、観光スポットを少し外れれば、切ないほど青い空の下にサトウキビ畑が延々と続いている。農道の脇に真っ赤なハイビスカスがひっそりと咲いている。

 中でも、備瀬のフクギ並木には痺れた。大センセイ、パワースポットだとか癒されるとか、そういう言葉を安易に使う人があまり好きではないが、フクギ並木には本当に人を癒す力があると思った。あの幅の広い肉厚の葉っぱに囲まれて木漏れ日を眺めていると、不思議な力で心身が癒えていくような感じが、たしかにするのだった。

 沖縄の人々の金銭感覚もまた、摩訶不思議なものであった。

 フクギ並木の入り口にはレンタルサイクル屋があって、料金は「1時間300円」と表示してある。

 大センセイが妻太郎の分も合わせて2台借りたいと言うと、店のおじさんが、

「500円ね~」

 と言う。

 二台借りると100円引きになるのかと思って500円を払い、備瀬崎まで乗ってビーチで熱帯魚と戯れ、3時間後に返しに行くと、

「ありがとねー」

 でお終い。超過料金も何も取らないんである。

 翌日も同じ店に行くと、今度は別のおじさんがいて、

「何時間乗るー」

 と先に聞く。

「三時間ぐらいですかね」

「じゃあ、1500円ねー」

 2台で100円引きと考えれば辻褄は合うが、普通は貸し出した時刻を記録しておいて、返すときに料金を精算するものじゃないだろうか。

 ビーチの近くのカフェに昼食を買いに行くと、「冷やし唐揚げ」というのを売っている。珍しいので、400円のチリドッグを2本、3個入り300円の冷やし唐揚げを1パック買ってテイクアウトにしてもらった。代金は1100円。こちらは、まっとうである。

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山田清機

山田清機

山田清機(やまだ・せいき)/ノンフィクション作家。1963年生まれ。早稲田大学卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。著書に『東京タクシードライバー』(第13回新潮ドキュメント賞候補)、『東京湾岸畸人伝』。SNSでは「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれている

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