もし、あのとき、別の選択をしていたなら──。人生の岐路に立ち返ってもらう「もう一つの自分史」。今回は、独特のトークでマジックに新たな風を吹き込んだマギー司郎さんです。ハンカチの向きを変えて「縦じまが、あれ、横じまになりましたよ?」。ほのぼのとしたキャラクターが魅力で、まさに芸は人なり。芸風を作り上げた人生を振り返ります。
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僕も昔は「ステージで自分がいいカッコしたい」って思っていたんですよ。でもそれじゃお客さんは喜んでくれないんですよね。相手の気持ちに立ってやらないと、楽しんではもらえない。
世界的なマジシャンも言っているけど、結局、「人」なんだよね。どんなに鮮やかにマジックをやっても、それをやっている人を好きになってもらえなきゃ受け入れてもらえない。人の上に立とうとするのではなく、かわいがってもらえるほうがいいんです。
僕の芸風は、たまたまの経験が教えてくれたんです。この世界に10年遅れて入っていたら僕は通用しなかったと思う。ただの下手な人で終わっていたと思う。社会はどんどん変わっているから。僕は、人生って何だかわからないものが支配していると思うんだよね。
よく「苦労されたんですね」って言われるんです。でも僕自身はあまりそう思ってないのね。ずっと幸せなの。他力本願なのか、行き当たりばったりなのか。でも人間って一生懸命計画すると、うまくいかなかったときにつらいじゃない。そういうのがないから、幸せなのかもしれないよね。
――終戦の翌年、茨城県で9人きょうだいの7番目として生まれた。家は貧しく、生まれつき右目がほとんど見えなかった。黒板の文字は見えず、勉強についていけなかった。
子どものころは内気だった。体も小さくて運動も苦手だったし、食事をするのも毎日競争。そのなかで、なんとなく「おとなしく、目立たずに生きていかないと」と思っていました。
いま思い返して手品に通じるかもしれないと思うのは「知恵の輪」ですね。オモチャ屋の店先で見つけて、病院に行くためのお金をこっそりためて自分で買ったんです。キラキラしてキレイなところに憧れただけだったかもしれないけどね。