沢木耕太郎(さわき・こうたろう)/1947年、東京都生まれ。ルポライターとして出発し、79年に『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年に『一瞬の夏』で新田次郎文学賞。その後も『深夜特急』や『檀』など名作を次々に発表し、2006年に『凍』で講談社ノンフィクション賞、14年に『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞を受賞。近年は長編小説『波の音が消えるまで』『春に散る』を刊行。近著に、25年分のエッセーを収録した『銀河を渡る 全エッセイ』、『作家との遭遇 全作家論』。 (撮影/写真部・小原雄輝)
沢木耕太郎(さわき・こうたろう)/1947年、東京都生まれ。ルポライターとして出発し、79年に『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞、82年に『一瞬の夏』で新田次郎文学賞。その後も『深夜特急』や『檀』など名作を次々に発表し、2006年に『凍』で講談社ノンフィクション賞、14年に『キャパの十字架』で司馬遼太郎賞を受賞。近年は長編小説『波の音が消えるまで』『春に散る』を刊行。近著に、25年分のエッセーを収録した『銀河を渡る 全エッセイ』、『作家との遭遇 全作家論』。 (撮影/写真部・小原雄輝)
沢木耕太郎さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・小原雄輝)
沢木耕太郎さん(左)と林真理子さん (撮影/写真部・小原雄輝)

 昨年、集大成となるエッセー集と作家論集を刊行した沢木耕太郎さん。日本を代表するノンフィクション作家として知られる一方で、近年は長編小説にも熱心に取り組んでいます。そんな沢木さんに作家の林真理子さんが迫ります。

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林:沢木さんって取材の対象者にすごく好かれますよね。『檀』をお書きになったときに、(故・檀一雄氏の)ヨソ子夫人から絶対的な信頼を得ていたでしょう。ヨソ子夫人は沢木さんになら何でもしゃべったという感じだから、あの名作ができたと思う。

沢木:娘の檀ふみさんがおっしゃるには、「一種のカウンセリングをしてたのね」って。僕は基本的に話してくれることをすべて受け入れるという感じで、1年のあいだに3回ぐらい、ゆっくりと同じ話をしてもらうんです。それが微妙に変化していって修正されていくわけだけど、自分の人生を3回物語るような相手って、自分の人生の中でほとんどいないじゃないですか。

林:はい。

沢木:旦那だって女房だって、そんな話聞いてくれやしないよね。それに、ある長さの時間をともに費やしてくれたら、誰でも好意を抱いてくれるんじゃないかと思う。どんなひどいことを書いても、「僕はあなたに好意を持っている」ということは相手にわかっているはずだから、許してくれるという感じはしますよ。

林:沢木さんに書いてもらうというのはうれしいことだから、身も心もさらけ出すと思いますよ。身はわからないけど、心は(笑)。

沢木:たとえば吉永小百合さんにしても、インタビューはそれこそ数えきれないくらい受けているだろうけど、インタビューはインタビューだよね。だけど、「あなたのことを理解したいので話を聞きたい。時間をとってもらえませんか」と真正面から言ったら、吉永さんにとってそれは事件だと思うよ。そうやってお願いして断られたことはないですね。「あなたを理解するために時間をもらいたい」と強く相手に伝えれば、それは伝わるという感じがする。

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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