【文豪の湯宿】サインを自ら…詩人・草野心平が愛した「僕の部屋」 〈週刊朝日〉|AERA dot. (アエラドット)

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【文豪の湯宿】サインを自ら…詩人・草野心平が愛した「僕の部屋」

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鈴木裕也週刊朝日#旅行
入の元湯 神泉亭/元禄期に発見された、胃腸病や痔に効くという源泉と、庭園が評判

入の元湯 神泉亭/元禄期に発見された、胃腸病や痔に効くという源泉と、庭園が評判

「僕の部屋」の襖には宿泊客が無断で描いた龍の墨絵が残る。心平はそれを知っても何も言わなかった
入の元湯 神泉亭/福島県いわき市内郷高野町中倉54

「僕の部屋」の襖には宿泊客が無断で描いた龍の墨絵が残る。心平はそれを知っても何も言わなかった
入の元湯 神泉亭/福島県いわき市内郷高野町中倉54

 文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる連載「文豪の湯宿」。今回は「草野心平」の「入の元湯 神泉亭」(福島県・高野鉱泉)だ。

【「僕の部屋」と呼んだ一室には、宿泊客が無断で描いた龍の墨絵が残る】

*  *  *
 詩人・草野心平は神泉亭の2階の一室を「僕の部屋」と呼んだ。窓から庭園を眺め、池の蛙の鳴き声を聞き続けていた。たまたま役所関係の手続きの際に宿泊して以降、たびたび電話をかけ「僕の部屋、空いている?」と予約を入れて訪れていたという。昭和46年4月にはこの宿で随筆「兄民平のこと」を執筆した。

 特別な扱いをせず用事がない限り放っておいたにもかかわらず、何度も訪れる詩人に、当時の女将は「近くに大きな温泉地もあるのに、どうしてウチなんぞにいらしたのですか?」と聞いたことがある。心平はにっこり笑い、こう答えた。

「そんなふうに聞いてくるような宿だからリラックスできるんだよ」

 著名人の宿泊に慣れておらず、色紙も頼めずにいた女将に、「何か書いて差し上げましょうか?」と、自ら色紙や書をしたためた。それらは今も宿に大切に保管されている。

 体調を崩して入院した昭和55年8月の日記には、「高野の奥の入の元湯のおかみさん」が果物を抱えて見舞いに来てくれたと書かれている。

 心平が愛した「僕の部屋」には、今も季節が来ると蛙の声が聞こえる。

(文/本誌・鈴木裕也)

■入の元湯 神泉亭(いりのもとゆ しんせんてい)
福島県いわき市内郷高野町中倉54

週刊朝日  2019年4月5日号


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