東京医科大学病院泌尿器科診療科長でロボット手術支援センター長も務める大野芳正医師は、次のように話す。

「高齢者に多い病気なので、持病がある人が多いのですが、手術が不可能な症例はまずありません」

 開腹手術は非常に少なくなったが、大腸や胆のう、胃などの開腹手術をしたことがあって、内臓の癒着などのためにロボット手術がしにくい場合などに選択される。

 気になるのは手術の合併症だ。尿失禁と勃起障害が高い確率で起こる。尿道を締める括約筋と、勃起にかかわる神経・血管が前立腺に近い場所にあり、まったく傷つけずに前立腺を切除することは難しいからだ。ロボット手術で、神経や血管を温存できる可能性が高くなるケースもあるが、それでも合併症を完全に避けることはできない。

 また、膀胱と尿道を切断・縫合するので、尿意切迫感(急に尿意を感じてがまんできない)などの症状があらわれることもある。

 尿失禁は、尿とりパッドを用いて対処するが、外出がイヤになるなど、現役の人では仕事に支障をきたすこともある。しかし、術後3カ月で6~7割が軽快、1年経てば9割以上が尿とりパッドなし、あるいは1日1枚程度の使用にまで回復する。手術前の状態に戻ることを望むより、あまり神経質にならず、たまに漏れるくらいは許容範囲ととらえるほうがいいだろう。

 勃起障害は、男性としての自信を喪失することにつながりかねない。そのため、手術をちゅうちょする人もいる。勃起神経を温存した場合、術後1年で約50%に回復がみられるという。

「50代や60代だと、合併症が気になるでしょうが、70歳前なら、やはり手術が第一選択になるでしょう。主治医とよく相談して、納得の上、治療に臨んでください」(大野医師)

(ライター・別所文)

週刊朝日  2019年4月5日号