このようながんの性質に加え、患者の中心世代が70代、80代と高齢であること、多くは症状がないこと、さらに、たとえば手術では尿失禁や勃起障害、放射線治療では頻尿など、それぞれの治療法に特有の合併症があることなどから、「治療法の選択の際には、患者の健康状態やライフスタイル、患者の希望などを十分に考慮すべき」と、日本医科大学病院泌尿器科の近藤幸尋医師は話す。

「同じ75歳でも、元気で前向きな人には、根治治療である手術や放射線治療を勧めますが、心筋梗塞などの病歴があって、あまり活動的でない人には、本人や家族の希望も聞いて、がんの進行を遅らせるホルモン療法を勧めることもあります。個人差が大きい世代であることを前提に、治療法を決めていきます」

 一般的には、手術の適応年齢は75歳以下とされている。しかし最近は元気で活動的な高齢者が増え、希望して、80代で手術を受ける人も増えてきている。

 手術による前立腺の全摘術は低リスク群と中間リスク群がもっともよい適応とされる。高リスク群におこなわれる場合があるが、放射線治療やホルモン療法を併用することが多い。

 手術は手術支援ロボット「ダビンチ」を用いたロボット手術が2012年に保険適用になり、現在では手術の主流になっている。

 ロボット手術は腹腔鏡手術の一つで、腹部に開けた孔から鉗子を入れて手術をおこなう。鉗子の先が自由に曲げられたり、3D画像で患部を拡大して鮮明に見られるなどのメリットがあり、従来の腹腔鏡による手術よりも、細やかで確実な手技が可能になった。

 全身麻酔で、おへその少し上の辺りに直径8~30ミリ程度の孔を6カ所あけ、そこから鉗子を入れていく。東京医科大学病院では手術時間は約3時間、入院は7~10日。術後6日間は尿道カテーテルを入れる。

 手術中は頭部を30度下げる形になる。そのため、緑内障のある人では一時的に眼圧が高くなるので、手術ができないことがある。そのほか、抗血栓薬を服用している場合は、事前に、手術時にも安全な服薬計画に変更する必要がある。

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