もっとも新作のライナーには、旧曲のセルフ・リメイクは“気楽にできそうだと思ったのは大間違い、これほど難しい作業になるとは”とある。“誰の助けも借りずに「宅録」という手段を選択したのだが、これが大問題だった”と明かしている。打ち込みの機材は時代遅れで、システムの入れ替えの必要にも迫られ、時間を要したという。結果、生ギターの弾き語りなどはともかく、打ち込みに関しては新旧のシステムが混在する“過渡期”的なものになったという。

“最近の音楽はデザインに近いので、メロディーやコードも意味が希薄になりつつある”“今や新しい音像のアルゴリズムが確立された時代になっている。こういう時に70年代の音楽を現在に移植することは実験的にならざるを得ず、色々な試行錯誤を繰り返すことになった”とも。そうした苦悩をあざ笑うためにも、「ほちょの はうす」という半ばふざけたタイトルをつけたそうだ。

 驚いたことに、本作は「相合傘」で幕を開け、「ろっかばいまいべいびい」で終わる。オリジナルと曲順が逆になっているのだ。

 新録音の「相合傘~Broken Radio Version~」は、オリジナル盤では演奏曲として数小節だけを収録していた。もともとソロ作に用意したのに、はっぴいえんどのアルバムに収録したため、名残惜しさがあったという。今回はその続きという意味合いで、ラジオのチューニング・ノイズに続くDJのコールで始まる。

 その曲をはじめ、どんなアレンジ、歌いぶりになったのか、というのが本作の最大の関心事だ。

 先行配信の「薔薇と野獣」はソウル・ミュージック的なロックから、エレピや打ち込みによるメローなファンク・テイストに。緻密に構成された洒脱なアレンジ、淡々とした歌いぶりが醸す芳醇な味わいにうっとりとなる。細野のヴォーカリストとしての魅力を遺憾なく発揮した曲だ。

 カントリー・ロック調だった「恋は桃色」は、ピコピコのテクノ・アレンジに。跳ねるスネア・ドラムや重厚なシンセ・ベースなど、サウンド作りの妙が光る。年を経て思い出の場所を再訪し、追憶を重ねたニュアンスがくみ取れる歌いぶりが印象深い。

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