漢方の起源は、中国の伝統医学だ。中国では「中医学」として根付いているが、日本には5~6世紀に伝来し、日本の風土や日本人の体質に合わせた「日本漢方(和漢)」として独自に発展を遂げてきた。

 漢方薬の原料は、植物や動物、鉱物など自然界にある生薬で、原則、複数の生薬を組み合わせて一つの処方が成り立っている。たとえば風邪薬としておなじみの葛根湯(かっこんとう)は、7種類の生薬(葛根、大棗[たいそう]、麻黄[まおう]、甘草[かんぞう]、桂皮[けいひ]、芍薬[しゃくやく]、生姜[しょうきょう])を配合したもの。高橋さんが服用した八味地黄丸は、地黄など8種類が含まれている。

「西洋薬は単一成分でできているので、一つの病気あるいは一つの症状に薬理作用を発揮します。そのため感染症の原因菌を殺す抗菌薬のように、ターゲットを絞った切れ味のいい治療が得意です。一方、漢方薬は構成生薬の一つひとつにいくつもの成分が含まれ、さらにそれらが微妙な配合で合わさることでからだ全体をいい状態に調整してくれる薬です。その結果として、さまざまな不具合が改善されます」(同)

 病院の治療の中心は、手術や西洋薬といった西洋医学だが、今の医学では治らない病気や、病気とはみなされない症状もたくさんある。たとえば高橋さんのような加齢による排尿障害、冷え、更年期のイライラ、病後の体力の低下、倦怠感などはいずれも西洋医学ですっきり治すのは難しい症状だ。こうした西洋医学の弱点を、異なるアプローチで治療する漢方なら補える可能性がある。

 また漢方では全身のバランスがととのえられるので、一つの症状だけでなくほかの不具合まで良くなることも少なくない。新見医師はこう続ける。

「抗がん剤の副作用を漢方薬で軽減したり、免疫力を強化する漢方薬を西洋薬と併用して治療効果を高める、といった使い方もあります。西洋医学をバックアップできることも、漢方の強みと言えるでしょう」

次のページ