冒頭のジャンプで痛恨のミス。4回転サルコーが2回転になってしまい、この要素に対する得点はゼロ。それでも、トリプルアクセルでは出来栄え点で3点以上の加点がつき、4回転-3回転のコンビネーションジャンプはクリーンに決め、音楽と同調したようなスピンやステップで魅せた。

 SPに対し、佐野さんは、「冒頭のジャンプ以外は完璧にやり遂げた。ステップも非常にダイナミックに見せてくれた」と評価しつつ、次のように解説。

「SPの要素は三つのジャンプ、三つのスピン、一つのステップと七つある。『七つしかない』と言ったほうがいいかもしれません。その中の一つがああいう形の失敗になってしまうと、ノーミスの選手よりも得点を伸ばすことがどうしてもできないのです」

 キス・アンド・クライの羽生は、自分自身に対して怒りに燃える「激おこ」の表情。自然と受け答えも早口になり、焦りがにじむ。

「いっぱいいっぱいでした。本当に全力でやりきることしか考えていませんでした」「(冒頭でミスした)サルコーに関しては、いろんなことを考えすぎてしまったかな。6分間練習で跳ぶスペースを見つけきれなかった。謙虚になってしまった。自信をもって、王者らしくいないと」(演技後の記者会見など)

 世界選手権で2度の優勝経験がある安藤美姫さんは、ミスを次のように分析。

「空中姿勢にいくタイミングがずれました。6分間練習で失敗したので、もしかしたら本番で力みすぎてしまったのかもしれません」

 さらに、こう述べた。

「(他の選手も含めてミスは)気持ちの面と体の面がマッチしなかったのかな、という感じです。今大会は男子も女子も、自分自身に集中した選手がいい演技をしたということ。結果的に、そんな演技が得点をもらっているように感じます」

3月22日(金)午前:公式練習に羽生は姿を現さず。

午後:公式練習。(けがをした時のジャンプの)得点源の4回転ループに苦しむ。曲かけ練習でも4回転ジャンプが空中で開いて転び、コンビネーションジャンプでも数回崩れる。

 羽生は練習の残り時間がわずかになっても、最初のポーズから振り付けをしながら4回転ループへの入りをぎりぎりまで確認。でも数回、失敗が続く。残り2分で4回転ループが決まった。あと1分のアナウンス。もう一度挑戦で転倒。ぎりぎりもう一度トライ。ぐらついたが、なんとか降りた。

 ファンはあたたかい拍手。最後に宇野昌磨と羽生が中央で観客に向かってお辞儀すると、いっそう拍手は大きくなった。

3月23日(土)昼:最後の公式練習。4回転+3回転のコンビネーションや、4回転サルコーも成功。しかし、4回転ループは不安定な着地が多い。練習時間残り6分で6回挑戦し、成功は1回。終了後もリンクサイドでコーチらとタブレット端末で映像らしきものを確認。そこを去ったのは8分後。「ありえない。こんなの」というファンの声。

21時2分:運命のFS……。

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