「骨を削る場所の近くに神経があるので、顔面麻痺や味覚障害などの症状が出ることがありますが、頻度は1%未満で、しばらくすると戻ることが多いので、あまり心配することはありません。また、異物を入れるので、感染を起こすこともありますが、こちらも頻度は低く、多くは抗生物質などによる治療でコントロールできます」(山岨医師)

「リスクを理解することは大事ですが、そのうえで、『それでも聞こえるようになりたい。先生、お願いします』と医師を信頼し、ドンと構えるぐらい前向きでいたほうが、うまくいくと思います」(曾根医師)

 技術の進歩により、近年、人工内耳の性能は飛躍的に向上している。スマートフォンと直接接続できる機種など、より便利に、快適に聞こえを補える人工内耳も登場している。

 基本的に、インプラントは一度植え込んだら一生使用できる。外側のプロセッサは、より進化したものが発売された場合に自己負担で交換することもできる。近年の傾向としては、両耳装用が増えつつあると山岨医師は話す。

「18年のデータでは、人工内耳の手術を受けた人のうち35%が両耳装用しています。両耳装用には、音の方向性が把握しやすくなる、雑音のある環境での会話がより聞き取りやすくなるなどのメリットがあります」

 人工内耳は健康保険が適用され、心身障害者(児)医療費助成制度や高額療養費制度などの申請も可能だ。自治体によって助成制度を設けていることもあるため、確認してほしい。

◯名古屋大学病院耳鼻咽喉科教授
曾根三千彦医師

◯東京大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科科長教授
山岨達也医師

(文/出村真理子)

※週刊朝日3月29日号から