■介護での貢献は残念ながら、ほぼ認められず

 ただ注意が必要。改正前も、相続人であるきょうだい間で、介護などの寄与分を主張して争うことは多々あったが、認められることはほぼなかった。なぜなら、寄与分が認められるには相当に高いハードルがあるからだ。『磯野家の相続』の著書があり相続に詳しい弁護士の長谷川裕雅氏はいう。

「介護で『寄与分』が認められるには、たとえば、仕事を辞めて『介護に専念した』といえるくらいのものが必要です。仕事帰りに親の家に通っての介護や同居しながらの介護くらいでは、『親族としての当然の協力の範囲』であり、認められません。親族間にはもともと『扶養義務』があるからです。『寄与分』とは、仕事を辞めて無償で介護に専念した場合や労務の提供として正当な給料をもらわずに親の事業を手伝った場合、その他それに匹敵するくらいのことなのです」
 
 親族ではない者に要求される度合いとは異なるものの、改正後も事情はあまり変わらないと予測される。つまり今回の改正は、寄与分を要求できる人の間口が広がっただけ。寄与分が認められるハードルは低くならないのに、寄与分を主張できる資格のある人が増えただけともいえる。

「義父母の介護に対して報いることができるようになった」と言えば聞こえはいいが、「相続にかかわる人間が増えるぶん、新たな争続の火種が増える」というとらえ方もできるのだ。
 
 改正前なら「相続人の資格がないから口を出してはいけない」と我慢していた長男の妻も、改正後は「嫁の私がこれだけ我慢して介護してきた」と相続に口を出してくるかもしれない。きょうだい間の争いに、それぞれの配偶者も参戦してくると考えるだけでも、頭が痛い人は多いだろう。もし、今回の改正で、自分の配偶者が「介護をしてきたから貢献が認められる」と思い込んでいるようなら、その勘違いを説明しておくことをおすすめする。

■所有権があっても、不動産を売れなくなる!?

 もう一つ、「妻(配偶者)に優しい改正」と期待の声が上がるのが「配偶者居住権」だ。こちらは2020年4月1日に施行になる。

次のページ
配偶者居住権とは?