その代わり、平日は寄席と都内で寄席以外の落語の仕事です。たとえば定席の昼の部に顔付けされていると……13時 浅草演芸ホール~14時30分 上野鈴本演芸場と寄席の掛け持ち。夜は19時から国立演芸場で独演会……と落語の仕事があり、その出演の合間に「鬼」が『打ち合わせ』『ラジオ・テレビ生出演or収録』『原稿執筆』『新聞・雑誌取材』『後輩・弟子への稽古』『先輩からの稽古』……とパズルを埋めるがごとく、時間的に移動可能なギリギリのスケジュールを埋めていくのです。カチッと嵌まって仕事が上手くいったときの高揚感はランナーズハイのようで、「鬼」も「私」も意外と楽しくこのピークを過ごしています。当人に言わせると、「まるで仕事がなかったときのトラウマがそうさせる」んだそうな。おー、こわ……。

 なんにせよ、フリーは仕事相手と直接やりとりするのでその人となりがよくわかる。メール・電話の応対で「おやおや?」と思う人でも、会ってみると憎めない人だったり、その逆もしかり。また自分もそういう目で見られてるかもっていうのがフリーのスリリングで良いところ。

 しばらく『働き方改革』もなく生きていこうかと……あー、あったあった。「楽屋で食べるアルフォート(菓子)は一日ひとつだけ」。これが最近の私が取り組んだ『働き方改革』かな。

週刊朝日  2019年3月22日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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