彼女はずっと、「俳優である限り、自分がやるべきことは、求められることに100%応えることだ」と思い込みすぎていた。

「私の中に、表現したいものなんてとくにないのに、監督や演出家から、私の“表現”を求められているような気がして勝手に苦しんでいたんです。だから、たくさん準備をすることが、唯一の自分を安心させる方法だった。でもこの間、似たような仕事をしている友達と話したとき、『世の中には、表現したい人と伝えたい人がいて、私たちは、伝えたい人のほうなんだよね』と言われて、妙に腑に落ちたんです。その言葉がきっかけで、『求められるものが何かを考えすぎて、自分自身のことを後回しにするんじゃなく、もっとありのままでいいんじゃない?』と思えた。本当に今更なんですけど(笑)」

 いろんな経験を積んで、ようやく身につけたたくましさ。今は、理想は二の次、とりあえずやってみることが大事だと実感し、それを実践しようとしている。

「適当さも持ち合わせた、図々しくて図太いおばさん力みたいなものを、身につけていきたいです(笑)」

 10代の頃の透明感はそのままに、彼女はこの秋、不惑を迎える。

(取材・文/菊地陽子)

週刊朝日  2019年3月22日号