何よりも、秘書官が勝手にそのようなことをやるとは、国民の誰もが納得できない。

 中江氏の答弁も、これと酷似している。

 野党は、厚労省が統計の取り方を変更したのは、アベノミクスの成果が出ていると見せかけるためだったのではないか、と疑念を深めている。

 だから、官邸の求めに忖度して変更したのだと捉えているのだ。

 ところが、特別監察委員会が2月27日に公表したのは、厚労省の不正を「意図的に隠したとまでは認められない」というものであった。

 何と調査の焦点を、15年9月ではなく、04年の不正に定めてしまったのである。

 厚労省は毎月勤労統計の調査の対象を、従業員500人以上の企業のすべてにしなければならないのに、04年から、都内について勝手に3分の1に絞ってしまったのだ。まったく公表しないままである。

 これは明らかに不正である。しかも、それを「意図的に隠したとまでは認められない」と判断したのだ。そのこと自体が問題ではあるが、04年の不正に焦点を絞れば、中江秘書官の発言、そして官邸の意向などとは無縁になる。これは調査の焦点のねじ曲げではないのか。

 そのことを野党もメディアもなぜ追及しないのだろうか。

週刊朝日  2019年3月22日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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