また、もう一つの特徴として、レビー小体型認知症に伴う幻視には、幻聴を伴わないことが多いと言われています。よって「その子とどんなお話ししたの?」「お声もかわいいの?」などと聞くと「それがね、いつも何も言わずに走って行くのよ」といったようなお話をされるかもしれません。レビー小体型認知症には、これら以外にも診断するうえで参考になる重要な特徴もあるのですが、また別の機会でお話できたらと思います。

 Aさんのケースでは、物忘れよりも幻視が先行して現れている可能性が考えられました。このような場合、考える力はしっかりしていそうなのに、いるはずのない子どもがいると言ったりするため、周囲の人たちは戸惑われてしまいます。しかし、レビー小体型認知症の場合、幻視などの症状に対してお薬が有効な可能性もあります。実際に、Aさんは飲んでいただいたお薬がよく効いたようで、それから女の子のお話しすることも少なくなりました。

 最後に繰り返しになりますが、ご相談にあるお母さまが病気なのかどうかは分かりません。私が今回紹介したケースとよく似ていても、中には「誰かがいる」というものが幻視ではなく、他の病気による“妄想”だったなどというケースも考えられます。しかし、何らかの問題がある場合、やはり早くから適切な対応を検討することが望ましいと思います。

 ケースによっては、精神的な問題以外にも体を動かす力が衰えているなど身体的な問題が生じている場合もあり、より安全に暮らしていただくために生活環境の見直しが重要なこともあります。必要になってくる対応は、必ずしもお薬による治療だけとは限りません。実際判断するには、直接お話を聞き、慎重に評価することが不可欠です。もし、「やっぱり病気かも」と思うことがあれば、ぜひ一度受診を検討してみてください。専門外来の受診に気が進まない場合、いつも診てもらっている医師へ相談してみることから始めてもよいと思います。(文/大石賢吾)

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大石賢吾

大石賢吾

大石賢吾(おおいし・けんご)/1982年生まれ。長崎県出身。医師・医学博士。カリフォルニア大学分子生物学卒業・千葉大学医学部卒業を経て、現在千葉大学精神神経科特任助教・同大学病院産業医。学会の委員会等で活躍する一方、地域のクリニックでも診療に従事。患者が抱える問題によって家族も困っているケースを多く経験。とくに注目度の高い「認知症」「発達障害」を中心に、相談に答える形でコラムを執筆中。趣味はラグビー。Twitterは@OishiKengo

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