肝に銘じるべきは、この制度は途中でやめられず、本人が亡くなるまで続くということ。遺産相続のために使い、それでおしまいとはいかない。だから、慎重に考える必要があるのだ。

 では、どうしたらこの制度を使わずに乗り切れるのか。一番重要なことは、親が元気なうちに対策を講じておくこと。私を襲ったお金の問題も、事前に対処することができた。

 親の口座からお金をおろせない事態は、親に暗証番号を聞いておけば避けられた。遺産分割は両親が遺言書を作っておけば、その意思に従って相続できた。遺言による相続は法定相続に優先する原則があるからだ。

 では、こうした対策を講じずに親が認知症になった場合は、あきらめなくてはいけないのか。

 答えはノーだ。例えば、口座の暗証番号がわからなくても、銀行に事情を説明して“直談判”すれば、当面の費用の引き出しを認めてもらえる可能性がある。認知症が初期段階であれば、遺産相続も自分で署名できるかもしれない。

 あらゆる手段を尽くし、それでもダメなときに初めて、制度利用を考えたい。その場合は、できる限り、専門家が成年後見人や成年後見監督人に選ばれないようにしたい。

 それが可能になるしくみが一つある。「後見制度支援信託」だ。この制度だと、本人の財産のうち定期的な出費分だけをこれまでの金融機関の口座に残し、残りをすべて信託銀行などに預ける。成年後見人が簡単にお金を引き出せないようにするためだ。これを使えば、司法書士などは選ばれず、報酬が発生しない。私も家庭裁判所に打診され、今はこのしくみを使っている。

 最近では、家裁との面談の場で「後見制度支援信託を使うか、あるいは専門職後見人(監督人)を立てるか」を聞かれるケースも増えたようだ。迷わず、支援信託を選ぶといい。ただ、この手続きは専門家に委ねる必要があり、約20万円の費用がかかる。

 5人に1人が認知症になる時代、成年後見制度のニーズはますます高まるだろう。しかし、慌てて利用すれば、必ず後悔する。お金の問題に必要な事前の対策を、今から講じることをお勧めしたい。

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