「ボリスカ」はメロトロンを用い、キング・クリムゾンのような懐かしいプログレ的展開。「イージリィ・チャームド・バイ・フールズ」はR&B的な曲。チャールズ・ブコウスキーの小説を引用したというが、歌われる“愚か者”はトランプ大統領を想起させる。

「アメジスト・レルム」は幻惑的なスロー・ロック。「トーディマンズ・アワー」はシャッフル風のブギ・ナンバーで、レゲエの要素を採り入れた。

「クリケット・クロニクルズ・リヴィジテッド」は前作に収録した曲「Cricket And The Genie」の続編。オリエンタルなメロディーとサウンドはサイケ時代のビートルズ風。食生活と運動で解決できるのに薬に頼る現代人に対し、薬害への警鐘を鳴らしている。本作でのハイライト曲だ。

 締めくくりの「ライク・フリーズ」もビートルズ風。地球を汚す人間は犬の背中にいるノミのように振り落とされてしまうと歌う。

 ショーンはこう語る。

「このアルバムは僕たちが知っている世界の崩壊のサウンド・トラックなんだ」

 かつては、歌声や作風が父ジョンに似ていると指摘され、そこから逃れようとした。今ではジョンだけでなく母ヨーコのDNAを受け継いでいることも受け止めている。そんな自然体のショーンと多才なレスのコンビは、前作を超えるコンテンポラリーなサイケ/プログレ作を生んだ。

 うれしいことに、前述のカヴァーEP『Lime And Limpid Green』の4曲が、ボーナス・トラックとして収録されている。初期ピンク・フロイドの「天の支配」をはじめ、キング・クリムゾン「クリムゾン・キングの宮殿」、ザ・フー「ボリスのくも野郎」、フラワー・トラベリン・バンドの「Satori」。これらも必聴だ。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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