当日、客席は6割くらいの入り。どーなんだろ……。舞台の隅で「一之輔さんのおかげでかたちになりました」と主催者。いやいやいや、○○師匠なら一人でも6割は必ず入るだろうが! 一之輔効果ほぼゼロだよ!

 お客さんの反応も微妙。私が上がってもウェルカム感ゼロ。「なんで縁もゆかりもないお前がゲストなんだよ!」という敵がい心にも似た空気が漂っています。へこんだな、あれは。危険を察した私は無理にすり寄ろうとネタ選びに失敗。どつぼに嵌まって『テコ』へし折れました。

 主役の○○師匠が高座に上がるとお客さんの熱がグーンと増して、もちろん落語会としては盛り上がったのですが……俺は果たして必要だったのか……?
師匠からの「みんな喜んでたよ。ホントにありがとう」の一言に、「いえいえいえいえ! お邪魔しまして申し訳ありませんっ!!」という言葉が腹の底から湧き上がりました。

 数字が伸びなくてもそれを楽しんでいる人は大勢いて、安易な『テコ入れ』を敏感に察知します。やりすぎて取り返しがつかなくなる前に、『いだてん』はそのまんまでよーし。ただ、のんちゃんの出演は希望します。以上、『テコ経験者』からのお願いでした。

週刊朝日  2019年3月15日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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