しかし、学生にお金をかけた分、「元を取らなきゃいけない」という意味で私は発言したのではありません。医学部も獣医学部も、世の中の需要の見極めが大事。お金がかかる分野だからこそ、計画性が必要だと言いたかったのです。

 ただし税金を投入する以上、大学入試では、「何のために」をもっとしっかり聞くべきだと思う。例えば、入試偏差値の頂点を極める「東京大学理科III類」。医学部医学科に進むコースですが、医師になりたいというよりも、「日本一難しいところに入りたい」という理由で受験する人が少なからずいます。そんな理由で入学してそのまま東大医学部を卒業しても、医師として信頼され、人のために働けるとは思えません。医師は、人と深く関わる分、人間性が大事。だから偏差値偏重ではなく、志望理由や人間性をよくみるべきだと思うのです。

 もちろん医学部に行ったけど、医者にはならなかった人もいます。人間、やりたいことが途中で変わることはあって当然。引け目を感じる必要はありません。私も法学部に進学したけれど、法律学の授業に全く興味が持てず、「しまった」と思いました。結局は方向転換せずに、そこにいたわけですが、その代わり2回も留年してしまいました。

 あなたが医師になりたいと願い、努力してきたのなら、入試で大いにアピールすればいい。意欲と能力のある人が学ぶ機会を得ることは当然の権利です。27歳なんて、まだまだ若い。大いに頑張ってください。

週刊朝日  2019年3月15日号

著者プロフィールを見る
前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

前川喜平の記事一覧はこちら