前川喜平さん。本連載では読者からの前川さんへの質問や相談を受け付けています。テーマは自由で年齢、性別などは問いません。気軽にご相談ください。
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医科大学などの赤本 (※写真はイメージです) (c)朝日新聞社
医科大学などの赤本 (※写真はイメージです) (c)朝日新聞社

 文部科学省で事務次官を務めた前川喜平氏が、読者からの質問に答える連載「“針路”相談室」。今回は、「年齢で合否を決める医学部入試は当然なのか?」という20代男性からの相談です。

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Q:加計学園の獣医学部問題の時に、前川さんが「学生を育てるのには税金がかかる」という発言をされていたのを聞き、「確かにそうだよな」と思いました。特に国立大学医学部が、高齢の受験生を排除したがるのも当然だなと。ただ人間、やりたいことが途中で変わることもあると思うんです。必死で努力してきたのに、不合格にする大学があるのはつらすぎると思います。(岡山県・27歳・男性)

A:年齢で大学受験の合否を決めるのはおかしな話です。やる気があるならチャンスを与えるべきだと思います。ご質問を見る限り、あなた自身もこれから医学部受験を考えているのでしょうか。医者は個人でできる仕事ですし、定年もない。100歳を過ぎても現役で活躍した日野原重明先生みたいな人だっていますから。

 僕が小学生のころ尊敬していた人は、医師のアルベルト・シュバイツァーです。30歳で医学部に入り、38歳で医学博士の学位を取得。その後、アフリカの医療普及に生涯をささげ、ノーベル平和賞も受賞しました。彼は90歳で亡くなり、医師生活は52年間。世界中の人から尊敬されました。

 そもそも高校を卒業してすぐに大学に入るという日本の常識が、世界の“非常識”なんです。先進諸外国は、一度社会に出てから大学に入るという例も珍しくありません。「現役」と「浪人」なんて言葉があるのも、日本ぐらい。医学部入試で浪人生を減点する差別はもってのほか。こんなことがまかり通るのは大問題です。

 確かに医師を育てるのにはお金がかかります。国立大学には運営費交付金、私立大学には私学助成という形で税金が投入されていますが、医学部はほかの学部に比べてその額が格段に大きい。医学部の学生1人あたりの税金投入額は、国立大学で年間400万円程度、私立大学でも年間100万円以上にのぼります。

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前川喜平

前川喜平

1955年、奈良県生まれ。東京大学法学部卒業後、79年、文部省(現・文部科学省)入省。文部大臣秘書官、初等中等教育局財務課長、官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官を経て2016年、文部科学事務次官。17年、同省の天下り問題の責任をとって退官。現在は、自主夜間中学のスタッフとして活動する傍ら、執筆活動などを行う。

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