ネオニコチノイド系農薬が発達期の行動に異常を起こすとする研究論文は、世界各地で発表されている。

 日本でも国立研究開発法人・国立環境研究所が、「ネオニコチノイド系農薬の発達期曝露が成長後の行動に影響を与える可能性を動物モデルで示唆」との論文を16年に発表した。

 それによると、妊娠した母親のマウスに水に溶かしたアセタミプリド(ネオニコチノイド系農薬)を与えた雄の子どもは、そうでないものと比べて不安を感じる情動反応(不安行動)に著しい異常が見られた。攻撃行動も増し、性行動などにも異常が見られたことが報告されている。子マウスの脳からは、農薬成分が検出された。

 神戸大学の研究によると、ネオニコチノイド系農薬を与えた成熟雄マウスは、実験で迷路に押しやると不安行動を示し異常な鳴き声を上げるようになった(異常啼鳴)。脳を調べてみると、その一部の遺伝子発現が活性化していたことがわかったという。

 さらに、前出の黒田氏は、発達期のラットの神経細胞を培養し、低用量のネオニコチノイド系農薬に曝露させて、細胞の遺伝子発現を調べた。その結果、脳発達に重要な遺伝子の発現に変動が見られた。発現が変動した遺伝子には、自閉症などに関連する遺伝子が含まれていたという。

「ネオニコチノイド系農薬は、人間の場合、健康被害が時間をかけて遅れて出てくる遅発性が特徴です。そこに気をつけなければなりません」(黒田氏)

 さらに、ネオニコチノイド系が厄介なのは、浸透性であることだ。

 それまでの有機リン系などの農薬は、農産物の表層に付着するだけで、雨などで流されてしまう。その度に生産農家は散布を繰り返す必要があった。

 ところがネオニコチノイド系は、そのまま植物の中に浸透していく。その分、効果が長持ちして、少量の散布で済む。生産者にとって便利で、急速に普及した。

 だがそれは、消費者にとってはリスクがある。それまで台所で洗い流して落ちていたはずの農薬成分が、農産物の中に残っている恐れがあるからだ。

 マウスの実験でもわかるように、妊娠中の母親が体内に取り込むことによって、胎児にもその成分が移行する可能性は否定できない。胎児にとって脳の発達が重要であることは言うまでもない。

週刊朝日  2019年3月15日号より抜粋