そして、「今後、制裁を強化するか」との記者の質問に、「北朝鮮にはすばらしい人がたくさん住んでいて、彼らにも生活がある。金委員長のことをよく知るようになって、私の考え方は変わった」と答えているのである。北朝鮮の国民を不幸にしたくない、と述べているわけだ。

 また、会談に同席したポンペオ国務長官も記者会見で「この2日間の首脳会談でさらなる進歩があった。しかし、不幸なことに我々は金委員長に対して、もっと踏み込む準備があるかと質問したのだが、金委員長はその準備ができていなかった。だが、今後については楽観視している」と語っている。

 そして、何より印象に残ったのは、トランプ氏が「歴代大統領は誰一人、北朝鮮の首脳と会談していない。私が前代未聞のことをやってのけた」と繰り返し強調したことだ。

 さらに、トランプ大統領は会談が続くことを前提にしている。ということは、北朝鮮の非核化を実現するためには会談を続けなければならず、それができるのは自分以外にない、そのためには自分が大統領に再選されるしかない、と国民に強く訴えていることになる。

 つまり、再選を狙って、会談を妥結させなかったのではないか、と私は捉えているのである。また、金正恩氏にとっても会談してくれる大統領はトランプ氏以外にはなく、彼の再選を願っているに違いない。

週刊朝日  2019年3月15日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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