また道といえば、『老子』の第四十八章に「学を為せば日に益(ま)し、道を為せば日に損す。之を損し又(ま)た損して、以て無為に至る」という一文があります。

 亡くなった今も私が敬愛してやまない伊那谷の老子こと加島祥造さんは、これを解釈して、

<誰だって初めは知識や礼儀作法を取り入れるさ、利益になるからね。けれども、それからタオにつながる人は、蓄えたものを忘れていくんだ。──いわば損をしてゆく。どんどん損をしていって、しまいに空っぽの状態になった時、その人は内なる自由を獲得する。それを無為というんだ>(『タオ─老子』(筑摩書房)

 と訳しています。

 そうなのです。道を為すとは内なる自由を獲得することなのです。加島さんはこう続けます。

<無為とは知識を体内で消化した人が何に対しても応じられるベストな状態のこと、あとは存在の内なるリズムに任せて黙って見ていることを言う>

 道を歩むことによって、内なる自由を獲得し、あとは存在の内なるリズムに任せていく。まさに、これも生と死を超越することではないでしょうか。その境地まで達したら、認知症などというものは、超えてしまっています。

 私はまだまだです。生きているうちに無理だったら、あの世で続きをやろうと思っています(笑)。

週刊朝日  2019年3月8日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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