もう一人、やる気スイッチの押し方を指南してくれたのが、精神科医で認知行動療法の第一人者、大野裕さんだ。認知行動療法とは、ものの受け取り方や考え方(認知)に働きかけて、行動を変えていく心理療法の一つ。その手法を、やる気スイッチの押し方に生かすにはどうしたらいいのか。大野さんはポイントとして、「考えずにまずは行動すること」と指摘する。

「やる気が出る一番のモチベーションは、やりがいや楽しめることですが、日々の生活でそういうものを見つけられない人は多い。その場合、気が重いとか、面倒とか考えずに、まずは無理のない範囲で動いてみる。最初の一歩を踏み出すことです」

 誰でも、行動してみたら意外と簡単で楽しかった、という経験をしたことがあるだろう。それを利用して動くことで、気持ちを変えていけばいい。

「人間のもともとの性質として、何か行動を起こす前に『こういう行動をとって大丈夫なのか』『行動してもダメなんじゃないか』というネガティブな思考が働きやすい。危険な行動を回避するための本能的なものですが、それがやる気を遠ざける要因となってしまっています」(大野さん)

 あれこれ考える前に行動を起こしていい体験ができれば、それが意欲につながり、やる気スイッチが入る。問題はうまくいかなかったときだが、そのときは「情報収集ができた」と考えるとよいそうだ。

「野球で考えてみましょう。3割バッターはすごいと言われますが、見方を変えると7割は失敗している。私たちはどうしても、できないことに目を向けがちですが、できることに目を向けるようになるだけでやる気は出てきます」(同)

「やる気時間」も重要だ。朝や夜など、自分が動きやすい得意な時間を知ることで、負担が軽くなる。

「考える前に動く、できることに目を向ける、やる気時間という三つを続けていけば、2~3週間で何か自分が変わったという実感が湧くと思います」(同)

 うつ病や薬の副作用、体の病気などで、どうしてもやる気が出ないこともある。特に高齢者のうつ病では、「意欲の低下」が起こりやすい。いろいろ実践しても状況が変わらなければ、一度、主治医に相談しよう。

 春はもう目前。あなたも明日から、やる気スイッチを押してみよう。(本誌・山内リカ)

※週刊朝日 2019年3月8日号