しかし物語は、いきなり15年後だ。範子役が山口になった途端、「あっ」となる。あ、これほんとにヤバいヤツ、近寄っちゃダメ絶対と、瞬時にわからせてくれる。ありがとう瞳孔。

 15年ぶりに再会したかつてのクラスメートたちの個人的問題に、範子はかたっぱしから介入してくる。

 不倫中の女優・麗香(田中みな実)の肌が荒れていれば、30時間煮込んだ鶏スープを鍋ごと持って来る。もちろん不倫も説教。

 クズ夫の借金問題で修羅場状態の由美子(美村里江)にも、30時間煮込んだ鶏スープを持って来る。それどころじゃない。

 由美子が夫婦ゲンカのはずみで、子供を突き飛ばせば「虐待」と糾弾。児童相談所に即通報する。

「私、何か間違ったこと言ってる?」

 開いた瞳孔で語る正論に次ぐ正論は、正義という名の有り難迷惑だ。

 雨にも負けず、風にも負けず、女子会のランチでお金貸してと言えば借用書を書けといい、領収書貰うと脱税だと諭し、職場でサッカーの勝敗賭ければ、賭博だと叱り、30時間スープを煮込み、いつも静かに瞳孔が開いている。

 西でも東でも、SNSで炎上しているコンビニのバイトとかいたら、とりあえず範子が30時間煮込んだスープ持って行くから。

週刊朝日 2019年3月8日号

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カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ

カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など。

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