このように、食べ物とニキビの関係はいくつか研究されているものの試験管レベルの結果であったり、反論があったり、はたまた不完全なものであったりします。数十人規模での研究では集団によって結果が異なることもあります。このため、チョコレートも牛乳も低GI食も、たまたまニキビに影響した研究結果になった可能性を否定できません。

 このことから、日本皮膚科学会がまとめた「尋常性ざ瘡治療ガイドライン2017」にはニキビに対する食事指導は推奨しないとしています。

 結果がしっかり出ていない食事療法を安易に推奨しないのには、理由があります。それは極端に行うことで健康被害が出る危険性があるからです。

 2005年、大分県では民間の治療師を名乗る男性の食事療法により、皮膚疾患をもつ女性が死亡し、事件になっています。この女性は体質改善という名目で、極端な食事制限を行い患者さんが肺炎で死亡しました。

 医学的に根拠が乏しい食事療法は健康被害が生まれる危険性があります。炭水化物を少し控えようという心構えならよいのですが、極端に実践してしまう方がいます。また、営利目的の悪用に使われることもあるため、安易な食事療法は勧められないのです。

 最終的に、ニキビに対する食事療法は医学的に根拠があるものはない、としかいえません。私個人の意見としては、患者さん自身が特定の食材の摂取に伴いニキビの悪化を経験しているのなら、個人の経験を信じて良よいと思っています。ニキビに関しては、低GI食、魚、野菜がよく、チョコレート、ミルクが悪いなど、多くの報告があります。極端な食事制限は危険であることを十分に念頭に置き、ニキビの悪化因子を探ってみてもよいかもしれません。ただしそれは、あくまでも個人の経験であるということをお忘れなく。

◯大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員を経て2017年より京都大学医学部特定准教授。皮膚科専門医。がん薬物治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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大塚篤司

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大塚篤司(おおつか・あつし)/1976年生まれ。千葉県出身。医師・医学博士。2003年信州大学医学部卒業。2012年チューリッヒ大学病院客員研究員、2017年京都大学医学部特定准教授を経て2021年より近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授。皮膚科専門医。アレルギー専門医。がん治療認定医。がん・アレルギーのわかりやすい解説をモットーとし、コラムニストとして医師・患者間の橋渡し活動を行っている。Twitterは@otsukaman

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