落語で途中棄権の“珍事” 一之輔も驚いたそのワケは?

連載「ああ、それ私よく知ってます。」

春風亭一之輔週刊朝日#春風亭一之輔
イラスト/もりいくすお
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イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「棄権」。

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 昭和の名人・八代目桂文楽師匠は『大仏餅』の口演中に絶句され、「勉強し直して参ります」という一言を残されました。それ以後高座に上がることはなかったという。なんでも「勉強し直して~」の一言を日頃からお稽古されていたとか……。

「絶句」は我々落語家が心底恐れるもの。寄席でも前座さんがたまに絶句しています。袖から見て「こりゃダメだ……」と思ったら、汗だくの前座に「いいからもう下がれ!」と声をかけます。堂々と名人のフレーズをパクろうとして「べ、勉強、す、なおすてまいりや、す!」とそれすら噛みまくるヤツもいます。

 年季を重ねて図々しくなると絶句してもとりあえずつないで、無理やり最後までやりきって楽屋で一言、「客は素人。間違えたってわかりゃしないよー(笑)」。いやいや、わかるっつーの……我ながら酷いもんです。途中『棄権』するくらいの初々しさが懐かしいな。

 二つ目のころの話。後輩のKと葬祭場の落語会に出演しました。真冬に40人で満員の会場。「あまり落語にはなじみはないけど、よく笑う温かいお客さまですよ」と主催者の嬉しい言葉。

 前に上がったKは『二番煎じ』に入りました。「凍てつく寒さの冬の夜。町内の“火の番小屋”で、猪鍋を肴に燗酒で暖をとる夜回りの旦那衆。そこに見回りの役人が現れて……」という、寒い日にはピッタリの噺。ですが二つ目の身分ではなかなか手掛ける場がありませんので、小さな会では大ネタを勉強したくなるのです。

『二番煎じ』序盤から大ウケ。壁一枚隔てた楽屋で後輩の噺に聴き入る私。番小屋で猪鍋を囲むシーン。酒を飲み鍋をつつくしぐさにまたまた笑い声。Kのヤツ、腕を上げたなぁ……。旦那衆が盛り上がっているところに突如現れる見回りの役人。おもてから“火の番小屋”の戸を叩いて、「番っ!! 番っ!! これっ! 番の者はおらんのかっ!?」。

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