林:奥田さんが演じる役は、いま目の前にいるカッコいい奥田さんとは別人のような、ショボいお父さんの役で、ほとんど言葉は発しないんだけど、圧倒的な存在感がありました。

奥田:引きこもりの老人の役ね。経営していた缶詰工場がダメになっちゃって、女房にも死なれて、それが自分の責任だと思って毎日酒びたりになってる人。久々に映画で勝負できる役が来たなという感じでしたね。

林:あのお父さん、ゴムのゆるんだヨレヨレのパンツはいてるじゃないですか。田舎のおじさんのパンツですよね。ああいうところまで計算されていて。

奥田:何せ引きこもりだから、誰に見られたって関係ないわけでしょう。僕の親父世代の、四角い綿のパンツからグンゼとかが出てきたころのパンツが印象に残っていて、「ああいうパンツをはきたい」と言って用意してもらったんです。

林:背中丸めて、お酒飲んで。実際には水なんでしょうけど、お酒飲んでる感じがよく出ていて、さすが毎日飲んでる人だなと思って(笑)。

奥田:365日飲んでるからね。沖縄で特別試写会やったんだけど、看護師の人から「あのお父さんの背中とか歩き方、まさにアルコール依存症の人そのものでした」という感想が届いたってプロデューサーが言ってた。喜んでいいような、悪いような(笑)。

林:亡くなった人の骨を親族が洗う「洗骨」って、沖縄の離島の奇習と言ってもいいと思うんですが、これが映画のテーマにされたことは、島の方にとってどうなんですか。

奥田:洗骨は、沖縄の離島のいくつかの島ではまだ残っている風習なんです。ちょうどわれわれの世代の人から「父母を洗骨しました」という手紙やファクスが来てました。那覇からフェリーで2時間ぐらいのところに、粟国島という小さな島があるんです。

林:はい、有名なお塩があるところですね。

奥田:ええ。粟国島もまだ洗骨の儀式が残っていて、島の中に「この世」と「あの世」の境目というのがあるの。ある地点を境に、「ここから向こうは“あの世”です」と。「あの世」のほうに入っていくと、家は一軒もなくて、断崖絶壁のところに小さい洞窟がいくつかある。その中に亡くなった方が棺桶に入れられて納められてるわけ。

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