「僕も働くけど、君も働いてほしい」

 曜日をずらして週3日ずつ働いて生計を立てる。土曜は一緒に過ごし、日曜は別行動という提案だった。

 キヨコさんが振り返って言う。

「ずっと共働きだったからね。子ども2人も独立したし、毎日朝から晩までずっと2人きりというのも息が詰まるかな……そんな思いもあって、夫の計画に賛成しました」

 パート収入は2人の総額で月7万円弱。年金と合わせ、貯蓄を取り崩すことなく暮らせている。

 キヨコさんは親しい友人と同じ職場を選び、「仕事も楽しい」と言う。

「お互い干渉しない時間を持つことは、円満な夫婦関係を長続きさせる秘訣かもしれませんね」

「つかず離れず」というべったりではない関係が、「次はどこへ行こうか?」と楽しく語り合える原動力になっているという。

 2人とも70歳を超えた。体力は落ちていく。ナオキさんはキヨコさんにこう話している。

「今のうちに2人で楽しく過ごそう。どちらかの体が動かなくなったら、それまでに楽しんだことを思い出して、それを楽しもう。2人の思い出をたくさん作れば、その後の人生も幸せだと思うね」

 夫の立てた計画は今のところ、うまく回っている。自分だけでなく、夫婦それぞれが同じように楽しめる工夫をした点がよかったのだろう。

 都内在住のタカシさん(65)と、妻のケイコさん(63)は、それぞれ会社勤めをしながら、母の介護に心を砕いている。

 双方の父親は他界し、母親はどちらも独り暮らし。タカシさんの母は認知症で、ケイコさんの母は心臓を患っている。

 最初に危機を迎えたのはタカシさんのほうだ。7年ほど前、母が買い物さえできない状態になった。職場で現役バリバリだったタカシさんは困った。仕事を優先するなら、母を自宅に呼び寄せてケイコさんの力を借りるしかない。でも、妻も仕事をしながら、自分の母親の自宅を訪ねたり、通院に付き添ったりと忙しい。

 タカシさんは思案の末、「介護別居」を決めた。自分が母と一緒に住むことにしたのだ。幸い、母の家は自宅から自転車で20分程度と近い。この距離なら、別居の心理的負担もそれほど大きくない。自宅マンションより母の自宅のほうが広いという事情もあった。

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