認知症の方の「自立支援」は大切ですが、「なんとなく食べているから大丈夫だろう」という判断ミスが仇になるケースが見受けられます。食の自立支援は「どのくらい食べたか」でなく、「どう食べられているか」でなくてはならないのです。そうでないと、認知症の窒息事故は決して防げません。

■「なぜ食べられないのか」原因を見極める

 私のクリニックでは、摂食・嚥下能力を10段階で評価していますが、まずは経験豊富な第三者が客観的に能力を評価することが第一歩です。当然慎重さは必要ですが、口から好きな食事をとることは、生きる活力や喜び、楽しみを与える重要な行為であり、とくに認知症の方にとっては、最後まで残せる生きがいとなります。さらに介護する側にも、力を与えることができるのです。

 老人ホームで鼻から栄養チューブを入れたお年寄りが自宅でゼリー食を食べられるまでになったり、余命数週間と言われて帰宅した方が、パクパク食べて半年以上元気に暮らしたりするケースもあります。家族と囲む食卓は、患者さんにとってよい刺激や活力になるのです。口から食べられない患者さんに気を使い、見られないようにこっそり食事をしているご家族もあるようですが、むしろおいしそうに食べる姿を見せてあげてください。

 摂食や嚥下機能に問題が起きた場合、その原因がのみ込みの問題なのか、食べる記憶の問題なのか、「なぜ食べられないのか」を正確に評価・解釈しないといけません。私たち歯科医師は、あくまでもエビデンスベースで診断すべきですが、患者さんへの食の環境や食べ方の提案は、その方の生い立ちや家族環境などを配慮した、一人ひとりに寄り添ったものでなくてはならないのです。

◯きくたに・たけし
1989年、日本歯科大学歯学部附属病院高齢者歯科診療科入局。同大学附属病院口腔介護・リハビリテーションセンターセンター長などを経て現職。東京医科大学兼任教授。専門は、摂食・嚥下リハビリテーション。