(1)動機能障害


 認知症の方は、運動機能障害の進行によって食べること自体に問題が生まれることがあります。自発的なリハビリや訓練は困難となり、摂食・嚥下障害を治すことは不可能なので、この場合は残された能力を百パーセント引き出してあげる環境改善に知恵を絞ることになります。食形態、食べ方、姿勢などを工夫して、少しでも最適な状態にもっていきます。

(2)手続き記憶の障害
 お箸を上手に使っているのでちゃんと食べているのかと思っても、食べるペースや一口量が守れずに、窒息の危険を伴うことがあります。また、食事をした体験そのものを忘れていて、食事を食べさせてもらえないと訴えることも。ものの意味や使い方を忘れてしまい、お箸で字を書こうとしたり、歯ブラシで髪の毛をとかしてしまう場合もあります。

(3)見当識障害
 「自分は今どこにいるのか」「今は何時か」など、置かれた状況を正しく認識できなくなることを見当識障害といいます。これが進むと、食べものとして認識できなかったり、逆に食べものでないものを食べてしまう場合もあります。せっかく歯が28本全部そろっているのに、ぬいぐるみを食べようとしてしまうお婆さんも実際に私の患者さんにいました。

(4)実行機能の障害
 料理を前にしてもキョロキョロと周りを眺めているだけで、食事が始められないなど、食べる手順がわからなくなる状態です。この場合は、一緒に食事をして、食べる手順を見せてあげることが有効です。

◯きくたに・たけし
1989年、日本歯科大学歯学部附属病院高齢者歯科診療科入局。同大学附属病院口腔介護・リハビリテーションセンターセンター長などを経て現職。東京医科大学兼任教授。専門は、摂食・嚥下リハビリテーション。