『82年生まれ、キム・ジョン』は女性蔑視への問題提起に満ちた一冊だ
『82年生まれ、キム・ジョン』は女性蔑視への問題提起に満ちた一冊だ

 今回、小説家・長薗安浩氏が「ベストセラー解読」で取り上げたのは『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著 斎藤真理子訳 筑摩書房 1500円※税抜)。

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 2016年秋に韓国で発売されたチョ・ナムジュの小説『82年生まれ、キム・ジヨン』は、100万部を超える大ベストセラーとなった。

 主人公は、タイトルどおり、1982年に生まれたキム・ジヨン。両親、祖母、姉、弟の6人家族で育った彼女は、まじめに勉強し、大学へ進み、恋も経験しながら就職活動で苦労し、どうにか入社した会社でよく働き、結婚して妊娠後に退職。育児をしながら働くことを模索するうちに、自分の母親や友人が憑依するようになり、夫に連れられて精神科を受診する──小説は、彼女を担当した精神科医が書いたカウンセリングの記録という体裁をとっている。

 キム・ジヨンが異常をきたした原因は、韓国に深く根づいた女性蔑視にあった。成績が良くても、進学ではなく兄弟を助けるために働くことを求められた母親世代よりはましとはいえ、彼女たちは女性というだけで、就職も担当する仕事も給与も差別されつづけた。それらを裏づける統計データも文中に登場し、同国の女性がいかに厳しい条件下で働いているか、よくわかる。キム・ジヨンに憑依した母親や友人の赤裸々な発言は、抑圧に耐えてきた普通の韓国女性の叫びのようだった。

 女性蔑視に対する問題提起に満ちたこの一冊は、東京医科大学や「週刊SPA!」が露呈したように、日本社会の暗部をも照射する。この問題は日本でも根深く横たわっている。解決策は男女そろって考えるしかないが、私は、主人公の母親が娘に放った言葉に魅力を感じたのだった。

「ジヨンはおとなしく、するな! 元気出せ! 騒げ! 出歩け! わかった?」

週刊朝日  2019年2月1日号