脳卒中専門医の前田眞治さんも同意見だ。

「炬燵は温泉に浸かったときのように体温上昇が極端ではありません。全身浴というより半身浴状態。しかも長時間入り発汗しても冬場は空気が乾燥しているので気づきにくい。さらに熱せられている部分の温度が高くなると低温やけどが生じることもあります。血栓を作りやすくする『PAI-1(プラスミノーゲン・アクチベーター・インヒビター1)』という物質が血管内壁から出やすくなったり、熱により血小板の変性が生じて血栓ができやすくなる可能性もあります。普通に炬燵に入るのであれば問題ありませんが、長時間や寝てしまうことで危険性が増すと考えられます」

「PAI-1」は、血栓を溶かす働きを阻害する物質のことだ。血栓ができる元凶ともいえる「血小板」。

「喫煙や肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの条件が重なると動脈硬化が進み、それにより血管壁が硬くなります。そこに血小板がくっつくことで、血栓ができてしまいます」(前出の米山医師)

 炬燵などの熱によって変性した血小板が、血管壁に付着しやすくなることもあるという。炬燵で長時間眠らぬよう注意をしよう。

「うたた寝しないように、『眠ったら起こしてね』と同居人に頼むとか、自分でタイマーをかけるとかして、常に気を付けること。定期的に水分をとって、1時間に1回ぐらいは立ち上がることです。あえていえば、1時間にコップ1杯ぐらいの水分を。お酒を飲んだ後は控えましょう。炬燵は一家団欒になるし、ぬくいし、電気代も安くて、お財布にも心にもあたたかいものです。『炬燵=悪い』と短絡的に考えるのではなく、上手な入り方で、体を守りましょう」(鳥居院長)

 誰も炬燵で死ぬとは思わない。でもよく考えてみると、正座であろうが足を投げ出していようが、同じ姿勢のまま動かず、体内の水分が減っていけば、血流状態が悪くなるのは容易に想像できる。実は記者も数年前、夜中に炬燵から出ようと立ち上がろうとしたとき、足に力が全く入らなくなったことがある。慌てて病院に行き、その後MRIやCT撮影など徹底的に脳の検査をしたが異常はなく、「足がしびれただけでしたね」という笑い話で終わった。しかし、笑えなかった。あのときの炬燵から出られなかった恐怖は思い出したくもない。結果、学んだことが二つある。一つ「加齢で脳は老いていくという自覚を持つこと」、そしてもう一つが、「炬燵には長く入らないこと」だ。前者は時々忘れがちだが、後者は忘れることはない。(本誌・大崎百紀)

★炬燵で「死なない」ための7カ条
【1】室内を加湿加温してから入る。
【2】1時間でコップ1杯を目安にこまめに水分を摂取。
【3】30分~1時間おきに体を動かす。
【4】温度はなるべく低めに設定。
【5】寝ない。
【6】長い時間入らない。危ないときはタイマー設定する。
【7】飲酒後は入らない。
(取材をもとに編集部作成)

週刊朝日  2019年2月1日号