「まぼろしのホーム」とも呼ばれるJR両国駅の3番線ホームであった日本酒のイベント
「まぼろしのホーム」とも呼ばれるJR両国駅の3番線ホームであった日本酒のイベント
商品ごとに最適な温度で燗酒が提供される
商品ごとに最適な温度で燗酒が提供される
畳の上にコタツが置かれたフォトスポット
畳の上にコタツが置かれたフォトスポット
ホームでコタツに入ってポーズをとる参加者
ホームでコタツに入ってポーズをとる参加者

 東京都墨田区のJR両国駅に、普段使われていない3番線ホームがあるのをご存じだろうか。総武線各駅停車が止まる1、2番線の隣にあり、一段低くなっている。この「まぼろしのホーム」とも呼ばれる場所で、燗酒(かんざけ)とおでんを楽しむイベントがあった。日本酒の良さを知ってもらう試みで、PRの切り札はホームでコタツに入った姿を撮影できる「インスタ映え」だった。

「燗酒ステーション」と題し、全国燗酒コンテスト実行委員会が初めて開いた。1月17~20日までで、2018年のコンテストに入賞した10酒蔵のブースが並ぶ。参加者はお猪口(ちょこ)を受け取り、ブースをまわってはしご酒ができる。関東や静岡、鹿児島など、ご当地のおでんも食べられる。1時間の入れ替え制で、前売りのチケット(2千円)はすでに完売する人気だ。

 3番線ホームには両国駅構内から入るので、電車で駅に行くか入場券が必要になる。

「普段は入れない場所で立ち飲みできるのは面白い。向かいの1、2番線ホームの人や通過する電車に乗っている人が、不思議そうにこちらを見ているのもいいですね。外で寒いかと思いましたが、お酒とおでんで暖まりました」(参加した30代男性)

 イベントの目玉は、畳の上にコタツを置いた「フォトスポット」。駅のホームで、コタツに入っておでんを味わう非日常をスマホで撮れる。実際に飲食することはできず、あくまでイメージ撮影のためのものだが、希望者が入れ替わりやってきていた。

 実行委員会の中心メンバーで、「酒文化研究所」の狩野卓也社長は狙いをこう語る。

「今回のイベントは日本酒好きの人だけでなく、いろんな人に来てもらいたかった。まぼろしのホームでコタツに入っていると、満員電車が横を通り過ぎていく。おいしい酒とシュールな感覚が体験できるので、予想以上に好評です」

 こうした初の試みをするのは、日本酒を取り巻く厳しい状況があるからだ。ビールや日本酒など成人1人当たりのお酒の消費数量は伸び悩んでおり、30年前のバブル経済のころより2割ほど減っている。日本酒の製造量は全体的には右肩下がりで、下げ止まっていない。

「最近は一部の吟醸酒などが若い人に好まれて、日本酒ブームと言われます。でも、全体的に見ると消費は増えていない。自宅で燗酒を飲む人が大きく減っているためです。幅広い世代に燗酒はおいしいんだと分かってもらうためにも、今回のようなイベントを続けていきたい」(狩野社長)

 イベントには若い女性らも多く来ていた。酒蔵の担当者は「日本酒は冷やから常温、熱燗までいろんな飲み方がある。いろいろ飲み比べれば、きっと好みの飲み方が見つかりますよ」と呼びかけていた。
(本誌 多田敏男)
※週刊朝日オンライン限定