過去に地方の落語会でのプログラムには、「落語家で4人の子の父・春風亭一之輔」と書いてあったことがありました。べつにいいけどさ。余計な肩書のせいでグッと所帯染みた感と、私が頼んだわけじゃないのに「俺、イクメン」アピール臭が漂っていてかなり恥ずかしかった。それに順番が違うだろう。百歩譲って書くとしたら、「4人の子の父で落語家」でしょう。それじゃ、父がメインになっているし。でも、なにより一番の問題は子供の数が1人多いこと! うちは3人だって! どこからの情報なんだよ。近しいお客さんから「また生まれたんですかっ!? おめでとうございますっ!!」とメールが来て、初めて気づいた自分もどうかと思うけど。お祝いもらっちゃうところだったよ。勝手に1人増やすなよなー。

 私の師匠・春風亭一朝は「『今日はイッチョウけんめいやります』でおなじみ……」と書かれていたことがありました。芸人の高座のツカミのギャグを肩書に書いちゃダメです。師匠もそれに気づかずやってしまい、いつもよりお客の反応が薄く「おかしいなぁ」と首をひねってました。余計な肩書は芸人殺し。

 三味線漫談で売れに売れた名人、初代・柳家三亀松師匠は芸種なども書かず、ただ『ご存じ』とだけしてあったそうです。すげえ肩書だ……。

週刊朝日  2019年1月25日号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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