犬バカ飼い主のリアルと社内失業と…『平成犬バカ編集部』の魅力

大西展子週刊朝日#読書
 犬バカを自認する片野ゆかさんの最新作『平成犬バカ編集部』(集英社、1600円※税別)は、日本で初めての日本犬専門雑誌「Shi−Ba(シーバ)」を立ち上げた井上祐彦(まさひこ)編集長を中心に、そこに集まったスタッフと愛犬たちの軌跡を追うノンフィクションだ。

「犬を取り巻く状況は、平成になってすごく変わりました。要は昔の非常識が今は常識になっていることがたくさんあって、私はそれを“犬現代史”として記録しておきたかったんです。特に平成に生きる犬バカの飼い主たちのリアルな姿を軸に楽しみながら読めるものを書いてみたかった」

 とはいえ、教科書的に犬の歴史を綴ってみても面白みはない。また、猫派や動物に関心のない人にも興味を持ってもらうにはどうしたらいいのか。そう考えた時に、頭に浮かんだのが井上編集長だったという。

「私が小学館ノンフィクション大賞を受賞した時にいらしてくれて5、6年ぶりにお会いしたんです。でも、『おめでとう』もそこそこに、自分の愛犬がいかにかわいくて、一緒に行った旅行がどんなに楽しかったかをベラベラしゃべって『じゃ!』と風のように去っていった(笑)。彼ほど常に犬のことを考え、躊躇(ちゅうちょ)なく愛犬自慢をする人はいない。もうこれは井上さんを主人公にするしかないなって」

 編集者として順風満帆だった井上さんだが、36歳にして社内失業状態となった。そこから彼がどのように起死回生を遂げていったのか。その過程は、会社という組織の中で働く者たちには身につまされ、共感を抱かずにはいられまい。

「崖っぷちに立たされた男の、小手先ではなく、全エネルギーを大好きなことに注ぎ込む姿に私はものすごく魅力を感じたんです。ただ、編集部は大人数ですし、17年も経っている創刊当時のことを聞いてもみなさん、記憶も薄れていてなかなか臨場感のある話を引き出すことができないんですね。ですから、バックナンバーを熟読して、本人が忘れているエピソードを投げかけては記憶を掘り起こしていただきました」

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