会社法違反(特別背任)の逮捕容疑は二つある。

(1)2008年10月、ゴーン氏が自分の資産管理会社が保有する通貨デリバティブ(金融派生商品)で生じた約18億5千万円の評価損を日産に付け替えた。

(2)この契約を自分に戻す際、約30億円分の借用保証に協力したサウジアラビアの実業家ハリド・ジュファリ氏に対し、日産の子会社から1470万ドル(約16億円)を送金させた、というものだ。

 ゴーン氏は法廷で次のように主張した。

 08年のリーマンショックで急激な円高となり、通貨デリバティブに18億5千万円の評価損が発生し、契約先の新生銀行から追加担保を求められたと説明。「一時的に日産に担保を提供してもらうことを選んだ」と述べ、「日産に一切、損害を与えていない」と強調した。

 ジュファリ氏については「長年の日産の支援者」と語り、「日産とサウジアラビアの代理店との紛争解決や、日産の工場建設実現のため支援してくれた」などと業務の正当な対価だったと主張している。

 元特捜検事の郷原信郎弁護士が指摘する。

「ゴーン氏は評価損を一時的に日産の信用の下に置いただけです。ゴーン氏と日産、銀行の三者間で『日産には金銭的な損失を負わせない』という文書まで交わして合意しています。実際に日産に損失を与えないように、ゴーン氏が引き取って清算しています。結果的に何も損失が生じていないのに、特別背任が適用できるわけがない。そんな事例は過去にもありません」

 しかも、資金提供を受けたとされるジュファリ氏に対して、特捜部は事情聴取さえ行っていないのだ。

 郷原氏が呆れながら言う。

「論外です。直接、当事者本人から支払いを受けた理由を確認しなければ、資金提供が不正なものだったのかどうか評価などできないはずです。いま、ゴーン氏が証拠隠滅するとすれば、その相手はジュファリ氏だけですが、検察官が調べてもいないのだから証拠に該当しません」

 ゴーン氏はいつになったら、保釈されるのか。

 日産の現経営陣は検察に情報を提供し、ゴーン氏追い落としを図ったとされる。だが、社内クーデターに乗った形の検察は本当にゴーン氏を罪に問えるのだろうか。無罪となった場合、しっぺ返しはとてつもなくおおきなものになるだろう。(本誌・亀井洋志)

※週刊朝日オンライン限定記事