林:まあ、そうなんですか。

天野:私立の下のほうって、みんなそんなもんですよ。上のほうの2割ぐらいが医学部の運営を支えてるんです。

林:お父さんは寄付金だとか、そういうことがお嫌だったんですか。

天野:そういうことより、当時は寄付金を払うための人間関係が求められたので、縁遠かったのでしょうね。

林:私、先生とほぼ同い年ですけど、お医者さんの子どもはすごい車に乗ってパーティーばっかりしてたのを覚えてますよ。それに群がる女の子がたくさんいて。

天野:ええ。卒業のときの謝恩会に、うちの両親もめかしこんで来てくれたんですが、学内に知り合いもいないし、場になじんでいなくて、しょぼんとしていて可哀想でした。学内でいちばん貧しかったであろうわが家でしたから。

林:そういうのをごらんになって、先生どうお思いになりました?

天野:「こいつら全員抜き去ってやる。全員俺の後ろに置いてやるからな」と心に誓いました。それで実際そうなりましたよ。

林:本当にすごいなあ……。そんな先生を見て、外科医を目指したいという子も多いんじゃないかと思いますけど。

天野:今は外科医ドリームみたいなものを描く若者は少ないですよ。病院経営は外科医が支えて成り立ってるんですけど、そういうのにアンチな人らが教育する側にいるから。医学生から見ると、外科医っていうのは「なんか面倒くせえやつらだな」という思いしかないんですよ。

林:それってゆゆしきことじゃないですか。女の人は皮膚科とか眼科に行く人が多いし。

天野:外科医は臓器を外側から治す唯一の診療科ですからね。今、内視鏡とか、血管の中から治療するカテーテルの治療とかありますけど、外から治さないと完全には治せない病気ってあるんですよ。そのために外科医は必要なんで、志のある外科医をつくらなきゃいけない。ただ、今の日本は高齢者が多くて、若者がアグレッシブに活躍できる領域がなくなってはいます。手術がうまくいかなきゃ医療訴訟にもなるし、活躍できる場がどんどん狭められていって、可哀想なところもあるんですよね。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年1月18日号より抜粋