はれやかな表情で引退会見に臨んだ吉田沙保里(撮影・大塚淳史)
はれやかな表情で引退会見に臨んだ吉田沙保里(撮影・大塚淳史)

“霊長類最強女子”がついにその看板を下ろした。オリンピックで3連覇を果たした女子レスリングの吉田沙保里(36)は1月10日、東京都内で現役引退会見を開いた。大勢の報道陣を前に吉田は「33年間、やりつくした」と話した。世界選手権と五輪で13大会連続の世界一、個人戦206連勝と数々の伝説を残してきた。

 午後2時、吉田は白いジャケット姿で会場に現れた。冒頭、「若い選手にレスリング界を引っ張ってほしい。自分と向き合って、レスリングはやりつくした、と思った。ありがとうございました」と引退を自らの口から伝えた。その表情は晴れやかで、涙はなかった。

 高速タックルを武器に無敵を誇った。2004年アテネ、08年北京、12年ロンドンと3大会連続で金メダル。銀メダルだった16年のリオデジャネイロ五輪以降、公式戦に選手として出場していなかったが、現役選手の引退は表明していなかった。母校の志學館大学(旧・中京女子大学)レスリング部や日本代表でコーチとして指導する一方、バラエティ番組に出演するなど活動を広げていた。

 吉田がここまで引退を先延ばしにしたのは、自国開催である20年東京五輪への出場をずっと迷っていたからだった。会見でも「リオ五輪では銀メダル。勝って終わらせたい、がんばらないとという思いもあって迷っていた」と心境を吐露。ただ、若い選手の活躍を目にして、ついに決断したという。

 1月8日にツイッター上で、17個のメダルが写った写真と共に「この度、33年間のレスリング選手生活に区切りをつけることを決断いたしました。ここまで長い間、現役選手として頑張ってこれたのもたくさんの方々の応援とサポートのおかげです。みなさん、本当にありがとうございました」と投稿した。

 日本レスリング協会の福田富昭会長は、協会ホームページ上でコメント。「吉田選手は日本の女子オリンピック金メダリストの第1号選手で、日本で女子を始めた私の20年目の悲願を達成してくれた選手です。長い間、女子レスリングを支えてくれたことに、深く感謝するとともに、ご苦労様と伝えたい」と労い、さらに「今後は、後進を育て、いい指導者として日本の女子レスリングの伝統をつなげてくれることを望みます」と指導者として期待した。

 誰からも愛されていた“霊長類最強女子”吉田。東京五輪でその勇姿を見れないのは惜しいが、指導者として第2、第3の"霊長類最強女子"を育ててくれるに違いない。
(本誌・大塚淳史)

※週刊朝日オンライン限定記事