すると竹下首相は「だからいいのだ。だから日本は平和なのだ」と答えた。そこで「それはどういうことですか」と問うと、「軍隊というのは戦えると戦ってしまう。だから危ないのだ」と答えた。そして、竹下首相は次のように語った。

 太平洋戦争に突入するとき、米国と戦って勝てると思っていた日本人は、政府にも軍部にも一人もいなかった。そこで、昭和天皇が陸軍の参謀総長と海軍の軍令部総長に「こんな戦争をしてもよいのか」と問われた。すると、海軍の軍令部総長が、時間がたてば、日本は石油などの資源が枯渇するので戦えなくなる、今ならば戦える、戦うならば早いほうがよい、と答えて、勝てる展望のない戦争に突入してしまった。

 竹下首相など、そのことを知っている政治家は、自衛隊が戦える軍隊になるのは反対だった。田中角栄も宮沢喜一も、おそらく小泉純一郎も同じ考え方をしていたはずである。

 田中角栄が、私に何度も言ったことがある。

「あの戦争を知っている人間たちが政治家でいる間は、日本は戦争をしないよ」

 軍隊とは、戦えれば、負ける戦争でもやってしまう。そして、戦争を知っている政治家がほとんどいなくなり、自衛のためならば戦うのが当然だという風潮が強くなりつつある。

 私は、戦争を知っている最後の世代である。

週刊朝日  2019年1月18日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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