「一番いいのは、まずその家の妻が『夫婦の将来』について夫と対話を始めることです。『老後はどうやって暮らしていく?』『住まいはこのままでいいかな?』。夫婦の今後の働き方、暮らし方を話し合い、そこから子供たちに渡していくものに関しても話し合いを広げていくのです」

 そんなとき役立つのが「退職後のお金プラン表」。夫婦それぞれの退職金、給料、年金などの収入や、生活費、住居費、保険料などの支出を毎年記入するもの。

「自分たちの家庭の収入、支出、資産を把握する習慣は定年前からつけておいたほうがいいと思います。毎年年始にでも記入して、夫婦で『家』の全容をチェックするようにしましょう」

 1回自分たちの財産を俯瞰して見てみると、子供サイドに残せるものも絞り込めてくる。

「その上で子供自身とコミュニケーションをとったり、遺言書を作っていくことです。財産の把握を面倒くさがったり、自分たちの意向を伝えることをいいかげんにしておくと、それはのちの相続のモメごとの種にしかならないのですから」

 遺言書に関しても、モメないためのひと手間をかけることは大切だ。

「遺言書は、財産を残していく被相続人の意思を表すためのものです。たいていが財産の分配に関することや相続人に関する事務的な通知文であることが多いのですが、できたらそのあとに被相続人の気持ち、思いを伝える『付言事項』も書いていただくのがベストだと思います」と語るのは、相続終活専門協会代表理事の江幡吉昭さんだ。財産をどう分けるという話は「法定遺言事項」。「付言事項」には「なぜそのような配分にしたか」、被相続人の気持ちなどをきちんと書く。

「たとえば相続させる財産に関し、きょうだい間で大きな差があるとします。でもそこには親の言い分や、ストーリーが必ず存在するのです。『A太郎は高収入の会社で頑張ってきたから安心だけれど、B太郎のほうは子供のときから人生のチャンスに恵まれてこなかった子だと思うので、B太郎に多く渡すようにしますが、理解してくださいね』といった、被相続人の思いが記されていれば、やはり相続人の受け取り方も全然違います。『付言事項』に法的な拘束力はありませんが、相続人への感謝の言葉と共にぜひ記載してほしいですね」

 しかし現状では、そもそも遺言を用意している人自体がまだ少数派だ。

「亡くなる方の10%ほどだと言われています。でも遺言を残すというのは、終活としてモノを処分したり、自分のいくつもの銀行口座をひとつにまとめたりすることと一緒。残された人たちが混乱したり、モメたりしないようにするためのマナーなのです」

(赤根千鶴子)

週刊朝日  2019年1月4‐11日合併号より抜粋