前川清との「あなたとわたし」は新曲で、糸井重里がユーモラスな歌詞を手がけている。メロディーはどこか服部良一風で牧歌的な叙情も。背筋を伸ばして取り組んだ前川の歌には深みと味わいがあり、矢野も丹念な歌いぶり。昭和歌謡の面影がある。

「やさぐれLOVE」はthe HIATUSの細美武士との共作。恋人への思いに揺れる男心を描いた歌だ。細美のせつない歌声に、矢野の声がやさしく寄り添う。

 52ページに及ぶブックレットに、共演したアーティストたちの思いが記されている。

“矢野さんは、とても少女でした。毒も針も持っていて、清楚な部分もかわいらしい部分もある、永遠の少女だなって”(吉井和哉)
 同時に、共演した多くのミュージシャンが矢野のひたむきな姿勢、きっぱりとした性格に触れ、敬意を払っているのが印象深い。

 本作はコラボしたミュージシャンをしっかりと受け止める矢野の懐の深さ、とめどない矢野の意欲を物語っている。(音楽評論家・小倉エージ)

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小倉エージ

小倉エージ

小倉エージ(おぐら・えーじ)/1946年、神戸市生まれ。音楽評論家。洋邦問わずポピュラーミュージックに詳しい。69年URCレコードに勤務。音楽雑誌「ニュー・ミュージック・マガジン(現・ミュージックマガジン)」の創刊にも携わった。文化庁の芸術祭、芸術選奨の審査員を担当

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