2日の朝、家を出るときテレビで箱根駅伝。上野鈴本演芸場の楽屋のテレビで箱根駅伝。出番が終わり、ふらふら歩いているとヨドバシカメラの店頭のテレビで箱根駅伝。つなぎに入った喫茶店のテレビで箱根駅伝。電車で隣に座ったオジさんがスマホで箱根駅伝。浅草の楽屋の師匠がラジオでまたまた箱根駅伝……。正月は行くさきざきで箱根駅伝。よく考えたら、私も寄席でたすきをつないでいる。前の演者からたすきを受け取り、自分の持ち時間で全力を尽くし後につなぐ。林家ペー先生からたすきを受け取ると客席は「焼け野原」のようになっているが、私はなんとか荒れ地を耕し、次につなぐ。知らず知らずのうちに『駅伝』していたのだ。

 正月3日。浅草の寄席の高座で「優勝は○○大でしたよ!」と、つい仕入れたばかりの速報を喋ったら大歓声。なんだか後がやりづらくなっちゃった。「なんで言っちゃうのよ!!」とふくれるおばさんも1名。あんたたち、そんなに箱根駅伝が気になるなら家で観なさいよ。とも思ったが、まあいいか。寄席に来てくれているんだから。また正月がやってくる。

週刊朝日  2019年1月4‐11日合併号

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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